【お題】苦い杯
――…可哀想に、そなたは女子に生まれてしもうた。
可哀想に。可哀想に。
憐れみ一つもない声音で、このとき既に美しい寡婦であった母はそううたいながら、あどけなさの内にどことなく母の面影を継ぐ娘の黒髪を撫ぜる。
七畳ばかりの薬部屋に、柔い手燭の灯りが揺れる。
櫻かさねの辻が花に彩られた小袖を纏う、片手の指の数にも満たぬ年の幼娘が坐す前に。――七ツばかり、中身を満たせる朱塗りの杯が置かれており、其のうち幾つかが毒を含んでいる事は既に習った事である。
一度まちがえば、焼ける喉にのた打ち回り。
二度まちがえば、死ぬることさえもあるという。
――…甲賀の技は、毒の術じゃ。何を毒と成し薬と成すかは、そなたの身を以て覚えるがよい。
毒の杯の向こうで、笑み一つ浮かべずに鮮やかな紅に彩られた母の唇がそう告げて。
杯を選べと、急かされる。
せんぶり、朝鮮人参。…間違わずとも、薬湯はひどく苦い味がすることが多い。泣きわめくことは母は何より嫌うので。杯の味がどうでも、ただ、こぶしを握って必死に耐える。
また、部屋に戻れば。あにさまがこっそり、金平糖やあんずの蜜漬けをもって来てくれる。
前に薬湯の苦さに泣いていたときに、そうだったように。
泣かないで、ははさまのわざをきっといつか覚えよう。
女子であっても。だいじなあにさまたちの、役に立つために。
(信州望月城・十数年前。望月千代女、望月千早)
12 祈りの炎 古恋う20のお題
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