【独白】泡沫の、あはれむかしの恋しさを
早朝、薄氷を踏んで三河から尾張の地へと旅に出る。
西へ西へと歩んでゆけば、凍える様だった風もにわかにぬるんでゆくような。
――もうすぐ冬も、終わるのであろうか。
背に残してきたひとびとを思う。
まだ、なにも終わってはいないのじゃ。気にかかる事は無数にある。
さだめられた諍いを彼らに全部預けて、妾だけこんなふうに帰るのは正しいのであろうか。
真田どのや白雲斎のじいさまが頭を撫でて言うてくれた、花火師も同じように背を押してくれた。
うれしかった。帰りたかった。さびしかった。
したが、彼らへの危惧だけではなく、妾は、まだ災厄を抱えたままで帰ることにも怯えている。
……どこに逃げるというわけにも、もはや、ゆかぬ…。
妾とて、忍衆や仟渡の兄弟たちだけに押し付けるでなく、自身でも吉川を守るためにこそ帰るのじゃ。
けれど、いまさら、……帰ることなど許されるであろうか。
渡り鳥とすれ違いながら考える。
こんなで、妾がひさかたぶりに門を叩いて、吉川のひとびとは――いったいなんと言うであろ。
妾のだいすきなひとびとは。
西へ西へと歩んでゆけば、凍える様だった風もにわかにぬるんでゆくような。
――もうすぐ冬も、終わるのであろうか。
背に残してきたひとびとを思う。
まだ、なにも終わってはいないのじゃ。気にかかる事は無数にある。
さだめられた諍いを彼らに全部預けて、妾だけこんなふうに帰るのは正しいのであろうか。
真田どのや白雲斎のじいさまが頭を撫でて言うてくれた、花火師も同じように背を押してくれた。
うれしかった。帰りたかった。さびしかった。
したが、彼らへの危惧だけではなく、妾は、まだ災厄を抱えたままで帰ることにも怯えている。
……どこに逃げるというわけにも、もはや、ゆかぬ…。
妾とて、忍衆や仟渡の兄弟たちだけに押し付けるでなく、自身でも吉川を守るためにこそ帰るのじゃ。
けれど、いまさら、……帰ることなど許されるであろうか。
渡り鳥とすれ違いながら考える。
こんなで、妾がひさかたぶりに門を叩いて、吉川のひとびとは――いったいなんと言うであろ。
妾のだいすきなひとびとは。
【独白】閑夜
山吹(匿ってもらっている妓楼名)で夜半、湯殿を借りに行って戻ってきてみると――部屋に布の包みがひとつ置いてあった。…なんであろ、楼主の女長者どのが夜食でも差し入れしてくれたかな。
そうも思ったが、一足と近付くと懐かしさに涙がこぼれた。
布をほどいてゆくとはたして思った通りの霊威を纏う小太刀の一対と畳まれた比礼がある。なにより、この剣は。ああ。ああ、これは、――…妾の小烏丸。興経さまから賜った、妾の大事な小太刀!
なぜ、こんな物が置いてあるのか。
――それというのも先日、三河国内の神社でばったり会うた世鬼の頭領どのに半ば押し付けた形で依頼をしたのじゃ。なんと、仕事が早いものだのう…。そも、あの時頭領に引き合わせてくださったのも明神のお導きか!あなかしこ。まだ神も妾を見棄ててはおられぬ。ああ、小太刀の霊威を視ることがまだできるのだと言う事もわかった。
否、比礼のことも勿論うれしい。ほんとうに、世鬼どのの衆が伊賀屋敷まで忍び入ってくれたのか…危険なことをさせてしもうた。置いてきた場所が場所じゃ、織り直しを余儀なくされるかとあきらめかけておっただけにありがたい。
…いまの、通力を失いかけた妾にどこまで使いこなせるものか、わからぬけれども。
これと、それに小烏丸があれば先代さまがいてくださる如くじゃ。怖がるべきものはなにもない。よるべない心にらしからず気鬱にもなりかけた昨今、まさに僥倖のよう。
桜の紋を端に据えた、白綾という存外可愛げのあるこの包みを抱えて世鬼の頭領が届けに来てくれたのかと思うと、何だか笑みも浮かんでしまうが。なんじゃ、付き合いのわるい。ここまで来たのであれば、世間話くらい付き合うて行ってくれればよかったのにのう……。頭領本人がわざわざ来たのではないのかもしれぬけど…。
・【独白】は邂逅録とも呼べないちょっと脇の方のおはなしです。文・伝言等のやりとりを含めて。
・最近の白蓮は知り合いと遊ぶ事に飢えている。でも最初に礼を言う事を考えた方がいい。世鬼さまありがとうー!
・吉川→伊賀屋敷→座敷牢→脱走、の経緯により伊賀屋敷には比礼を含めた私物をいろいろ回収しそこなってました。きがえの水干とか。おやつとか。
そうも思ったが、一足と近付くと懐かしさに涙がこぼれた。
布をほどいてゆくとはたして思った通りの霊威を纏う小太刀の一対と畳まれた比礼がある。なにより、この剣は。ああ。ああ、これは、――…妾の小烏丸。興経さまから賜った、妾の大事な小太刀!
なぜ、こんな物が置いてあるのか。
――それというのも先日、三河国内の神社でばったり会うた世鬼の頭領どのに半ば押し付けた形で依頼をしたのじゃ。なんと、仕事が早いものだのう…。そも、あの時頭領に引き合わせてくださったのも明神のお導きか!あなかしこ。まだ神も妾を見棄ててはおられぬ。ああ、小太刀の霊威を視ることがまだできるのだと言う事もわかった。
否、比礼のことも勿論うれしい。ほんとうに、世鬼どのの衆が伊賀屋敷まで忍び入ってくれたのか…危険なことをさせてしもうた。置いてきた場所が場所じゃ、織り直しを余儀なくされるかとあきらめかけておっただけにありがたい。
…いまの、通力を失いかけた妾にどこまで使いこなせるものか、わからぬけれども。
これと、それに小烏丸があれば先代さまがいてくださる如くじゃ。怖がるべきものはなにもない。よるべない心にらしからず気鬱にもなりかけた昨今、まさに僥倖のよう。
桜の紋を端に据えた、白綾という存外可愛げのあるこの包みを抱えて世鬼の頭領が届けに来てくれたのかと思うと、何だか笑みも浮かんでしまうが。なんじゃ、付き合いのわるい。ここまで来たのであれば、世間話くらい付き合うて行ってくれればよかったのにのう……。頭領本人がわざわざ来たのではないのかもしれぬけど…。
・【独白】は邂逅録とも呼べないちょっと脇の方のおはなしです。文・伝言等のやりとりを含めて。
・最近の白蓮は知り合いと遊ぶ事に飢えている。でも最初に礼を言う事を考えた方がいい。世鬼さまありがとうー!
・吉川→伊賀屋敷→座敷牢→脱走、の経緯により伊賀屋敷には比礼を含めた私物をいろいろ回収しそこなってました。きがえの水干とか。おやつとか。
【独白】望郷
あにさまに、文を書いてみようかなあ、――と思った。
いちばんうえのあにさまは腹を切ってしまわれたけれども、小兄さまは、家督を継いであの、なつかしい、佐久と小県を支配する望月城におられるはずじゃ――…真田どのやひなぎくがいる上田の、まさにとなりぐらいの場所で。
いちばんうえのあにさまは腹を切ってしまわれたけれども、小兄さまは、家督を継いであの、なつかしい、佐久と小県を支配する望月城におられるはずじゃ――…真田どのやひなぎくがいる上田の、まさにとなりぐらいの場所で。


